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記事: 「つまみ細工」の漢字はなぜ揺れるのか。摘・撮・抓、三十年ぶんの記録。

『衣服と流行』摘細工につまみざいくのルビが振られた頁
つまみ細工

「つまみ細工」の漢字はなぜ揺れるのか。摘・撮・抓、三十年ぶんの記録。

つまみ細工の表記は、いまも一定しません。ひらがなで「つまみ細工」、漢字で「摘み細工」、古い本では「摘細工」、ときには「撮み細工」。

私たちは資料を調べる仕事の中で、この揺れに何度も足を取られてきました。ひとつの表記で検索すると、別の表記で書かれた資料を丸ごと取りこぼすからです。

そこで、いっそ全部数えてみることにしました。

十八通りの表記を、全部検索した

国立国会図書館の全文検索で、考えつくかぎりの表記を試しました。「裁細工」「きれざいく」「切細工」「裂細工」「きれ細工」「裁物細工」「布細工」「摘細工」「摘み細工」「撮細工」「撮み細工」「抓み細工」「つまみ細工」「つまみざいく」「つまみ簪」「摘み簪」「花かんざし」「花簪」の十八通りです。

件数が百を超えるものは途中で打ち切られてしまうので、最後の一件まで取得し直しました。初出の年を見誤らないためです。

結果を、初めて現れた年の順に並べます。

| 表記 | 初出 | その資料 | |---|---|---| | 裁細工(きれざいく) | 1847年 | 歴世女装考 | | 剪裁細工 | 1876年 | 米国博覧会報告書(フィラデルフィア万博) | | 摘細工 | 1891年 | 第三回内国勧業博覧会報告書 大阪府部 | | 摘み細工 | 1895年 | 衣服と流行 | | つまみざいく(ルビ) | 1895年 | 衣服と流行 | | 撮細工 | 1904年 | 第五回内国勧業博覧会大阪府事務報告 | | 撮み細工 | 1915年 | 家庭日用衛生医典 | | 抓み細工 | 用例なし | ── |

江戸期の呼び名が「裁細工(きれざいく)」だったことは、この連載の別の回で詳しくご紹介しました。ここから先の話です。

「摘」が現れてから、三十年揺れ続けた

『衣服と流行』摘細工につまみざいくのルビが振られた頁
明治二十八年『衣服と流行』。「摘細工」に「つまみざいく」とルビが振られている。国立国会図書館デジタルコレクション PID 848563 コマ29

明治二十四年(1891年)に「摘細工」が現れます。第三回内国勧業博覧会の公式報告書です。

その四年後、明治二十八年(1895年)の『衣服と流行』に「摘み細工」と、送り仮名の付いた形が出ます。同じ本に「つまみざいく」というルビもあり、読みが確認できる最初の例になります。

さらに九年後の明治三十七年(1904年)、第五回内国勧業博覧会の大阪府事務報告に「撮細工」。摘ではなく撮です。

そして大正四年(1915年)に「撮み細工」。

つまり明治二十四年から大正四年まで、二十四年かけて四通りの表記が現れ、そのあいだ並行して使われ続けていました。

しかも面白いことに、「抓み細工」という表記だけは一件も出てきません。 抓むも「つまむ」と読む字ですが、この分野では使われなかったようです。

表記の揺れは、公式文書の中で起きていた

第三回内国勧業博覧会報告書 大阪府部。摘細工の表記
明治二十四年『第三回内国勧業博覧会報告書』大阪府部。品目に「摘細工」が現れる。国立国会図書館デジタルコレクション PID 801910 コマ42

ここが妙なところです。

揺れているのは、個人の随筆や雑誌ではありません。内国勧業博覧会の報告書という、国が出した公式文書の中で揺れています。

明治十年は「裁細工」。明治二十四年は「摘細工」。明治三十七年は「撮細工」。同じ系列の博覧会報告書で、開催のたびに字が変わっている。

当時、この手仕事を表す正式な漢字が定まっていなかった、ということだと思います。分類の担当者が、そのつど耳で聞いた「つまみ」に字を当てていた。そう考えると、揺れ方の説明がつきます。

初期の用例は関西に集まっている

もうひとつ、数えていて気づいたことがあります。

「摘細工」の初期の用例は、地域が偏っています。

1891年 第三回内国勧業博覧会報告書 大阪府部 1900年 五二会全国品評会事績彙纂 兵庫県五二会本部 1903年 大阪府工業概覧 1904年 大阪府工業概覧/第五回内国勧業博覧会大阪府事務報告

明治二十年代から三十年代は、大阪と兵庫です。

これが1908年の東京勧業博覧会審査報告を境に、東京の資料が中心になります。東京小間物化粧品名鑑、東京遊学案内といった具合です。

「摘細工」という表記は関西から出て、後に東京が引き継いだ。 そう読める分布になっています。

ただし、なぜ関西からなのかは分かっていません。 大阪に何か表記を決める事情があったのか、たまたま報告書を書いた人の癖なのか、資料からは判断できません。ここは分からないままにしておきます。

調べ物をされる方へ

もし、つまみ細工の古い資料をご自分で探される機会があれば、ひとつだけお伝えしたいことがあります。

「つまみ細工」だけで検索しないでください。

明治の資料は「摘細工」で書かれていることが多く、大正には「撮み細工」も現れます。そして江戸まで遡るなら「裁細工」です。ひとつの表記で探しているかぎり、そこには届きません。

私たちも、この当たり前のことに気づくまでにずいぶん時間を使いました。同じ回り道をされる方が減れば、この記事を書いた甲斐があります。

なぜ、私たちがこれを調べるのか

つまみ細工は、絹の小さな布を一枚ずつ折り、寄せ集めて花にする手仕事です。京都 おはりばこは、この技で髪飾りを作り、教室でお伝えしています。

作り方は受け継がれてきました。けれど、それがどこから来たのかは、意外なほど曖昧なまま語られてきたと感じています。だからこそ、伝聞ではなく原典にあたる。分からないことは分からないと書く。裏が取れたら、自分が前に書いたことでも直す。

手を動かしながらこの歴史に触れてみたい方は、教室でお待ちしています。京都の教室についてオンライン講座について

ご自宅で試してみたい方には、絹地や道具もご用意しています。つまみ細工の材料と道具

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「京製なるはすぐれて美工なれど、價は廉く樸にして雅なり」

つまみ細工の起源はどこまで遡れるのか

「剣つまみ」という呼び名はいつ生まれたのか

出典

『明治十年内国勧業博覧会審査評語』二、内国勧業博覧会事務局、明治十年(1877年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 801857、コマ38。

『第三回内国勧業博覧会報告書』大阪府部、大阪府内務部、明治二十四年(1891年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 801910、コマ42。

『衣服と流行』博文館、明治二十八年(1895年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 848563、コマ29。

『第五回内国勧業博覧会大阪府事務報告』大阪府内務部、明治三十七年(1904年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 802676。

『家庭日用衛生医典』大倉書店、大正四年(1915年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 1015500ほか。

『大阪府工業概覧』府立大阪商品陳列所、明治三十六年・三十七年(1903年・1904年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 802675・802676。

『五二会全国品評会事績彙纂』第二回、兵庫県五二会本部、明治三十三年(1900年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 902265。

『東京勧業博覧会審査報告』巻三、明治四十一年(1908年)。国立国会図書館デジタルコレクション PID 801790。

検索は国立国会図書館「次世代デジタルライブラリー」の全文検索によります。同館がデジタル化し全文テキスト化した資料の範囲での結果であり、未デジタル化資料や全文テキストのない資料は対象外です。初出年は、その範囲で確認できた最も古い例を示しています。

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