なぜボンドではなく、でんぷん糊なのか|つまみ細工の糊の話
つまみ細工には、でんぷん糊を使います。木工用ボンドではありません。
「なぜですか」と、教室でよく聞かれます。ボンドのほうが強く、早く、簡単にくっつくのに、と。もっともな疑問だと思います。
理由は、乾くのが遅いからです
でんぷん糊の長所は、乾くのが遅いことです。短所ではありません。長所です。
つまみ細工は、花びらを一枚ずつ土台に葺(ふ)いていく仕事です。5枚、9枚と重ねていくうちに、最初の一枚の角度が気に入らなくなることがあります。全体を見て、あとから直したくなる。
でんぷん糊なら、直せます。まだ乾いていないから、そっと動かせる。ボンドだと、その瞬間に決まってしまいます。
やり直せることが、仕上がりを変えます。
絹の風合いを、殺しません
もうひとつ。でんぷん糊は、絹の質感を損ないません。
ボンドは乾くと硬く、樹脂の膜になります。絹の縁が固まって、てらてらと光ることがある。せっかくの絹の、内側から発光するような表情が消えてしまいます。
でんぷん糊は、米や小麦のでんぷんです。乾いても布のまま。絹は絹のまま残ります。
百年前の簪が、いまも柔らかい表情のまま残っているのは、そういう糊で作られているからです。
糊板に伸ばして使います
でんぷん糊は、糊板の上に薄く伸ばして使います。花びらの切り口を、その上に押し付ける。
こうすると、いつも同じ量の糊がつきます。糊の量が安定すると、花びらの立ち方が揃います。直接つけようとすると、多すぎたり少なすぎたりして、花が均一になりません。
竹べらで糊をすくい、板に伸ばす。それだけの作業ですが、工房では毎朝これをやっています。
姫糊(ひめのり)のこと
おはりばこでは、つまみ細工専用のでんぷん糊「姫糊」を作っています。教室でも、工房でも、これを使っています。
市販の糊で作れないわけではありません。ただ、つまみ細工に合う粘りと乾き方があります。硬すぎると花びらが動かせず、緩すぎると立ってくれない。そのあたりを、自分たちが使いやすいように調整したものです。
90gのミニサイズ、250gの通常サイズ、1kgの大容量をご用意しています。まずは、生地とセットになった「つまみはじめてセット」からでも。
ボンドを使うキットもあります
とはいえ、まず形にしてみたい、という方もいらっしゃいます。
ボンドで作れるコサージュのキットもご用意しています。ピンセットもでんぷん糊も要りません。折り紙の感覚で作れます。そこから入って、面白いと思っていただけたら、でんぷん糊に進んでいただければ十分です。
京都 おはりばこについて
おはりばこは、京都・西陣で創業80年、簪と和装小物を作り続けてきた店です。ここで扱っている材料は、すべて工房の作業台に載っているものです。